高齢化とロック

 

 海外の大物ミュージシャンの死が相次いで報じられた。グラミー賞の追悼のコーナーも、年々長くなっている気がする。
 ザ・フーレッド・ツェッペリンビーチ・ボーイズも、1960年代を生き抜いたロックバンドたちは、メンバーの死を通過してきた。ドラッグや飛行機事故、メンバーの死は、ロックでは避けられないものだった。だがその時代は終わった。いまや彼らの死因第1位は、病死である。高齢化しているのだから当たり前なのだが、現代は、ロックミュージシャンが寿命で死ぬ時代なのだ。
 米ローリングストーン誌が選ぶ「歴史上最も偉大なアーティスト」上位10位にランクインするソロミュージシャンは、ボブ・ディランエルビス・プレスリーチャック・ベリー、ジミヘン、ジェームス・ブラウン、リトル・リチャード、アレサ・フランクリンレイ・チャールズの8人で、ご存命は4人。ただし、皆70代を超えている。不謹慎ながら記事掲載時に存命者の数は、変化していてもおかしくない。
 上位10位に入ったバンドのひとつであるビートルズは、メンバー4人の内存命2名だ。1人は、36年前にファンに殺され、1人は15年前に癌で死んだ。
 もうひとつ10位以内にランク入りしたバンドは、ローリング・ストーンズ。こちらは歴代の在籍メンバー中、死んだのはブライアン・ジョーンズのみで、あとの6名は存命。彼らは、見てくれに反して見事高齢化に対応した組織なのだ。現メンバーで再若手のロン・ウッドで68歳。ミックとキースは、72歳。もちろん現役のライブバンドである。英の保険協会は、彼らに感謝状を贈るべきだろう。
 かつて『バンド臨終図巻』という本を企画し、知人のライターと手分けして古今東西200バンドの解散理由だけを記した奇書をつくったことがある。そこそこ売れたが、レコード店の書籍コーナーが縁起が悪いせいか置いてくれなかった。なので、目論見ほどは売れなかった。それが6年前のこと。
 その本の中のコラムで僕は、そろそろ老衰でメンバー全員死滅というバンドが出てくるだろうという文章を書いた。もう、これがジョークではすまされない時代が迫っている。
 英国男性の平均寿命が78歳。ストーンズはあと10年続けられそうだが、ビートルズは数字的には5年で消滅しても不思議ではない。
 かつて、ポール・マッカートニーは『ホエン・アイム・シックスティー・フォー』という歌を作った。僕は64歳になって、ガーデニングや草むしりをしてるだろうけど、それでも君は僕を必要としてくれるかい? と恋人に語りかけるかわいらしい歌詞の曲だ。だが、実際、ポールが64歳を迎えたときには、2人目の妻との離婚裁判中だった。現在のポールは、音楽家として積極的な活動を行い、3人目の奥さんと結婚した。多分、ガーデニングに打ち込むほどの暇はない。

 ロックと高齢化。意外と相性が良かったということだ。

 

初出:『ビッグコミックオリジナル』「オリジナリズム」(2016年4月)