『シャコタン☆ブギ』のジュンちゃんとジョン・ミルナーの共通点

 


シャコタン☆ブギ』(1984〜1995年)は、ヤンキー漫画、走り屋漫画の側面もあるが、基本的には、80年代の地方都市の若者たちの典型像を描く青春漫画である。

町の中心にロータリーがあって、そこにナンパ目的のクルマたちが列をなしている。地方都市ではお馴染みだった光景である。そんな風景がこの作品には登場する。80年代、まだ日本の地方都市にも活気があった時代。

主人公たちは、四国の中堅都市の高校生コンビ。見栄っ張りでの威張り屋の先輩ハジメと、その後輩で、自分がイケメンであることに自覚のないコージのコンビ。ハジメは、高校をダブっているので18歳でクルマを持っている。農家を継がせたい親が買ってくれたトヨタソアラである。17歳のコージの愛車は、ヤマハの50ccのスクーター・チャンプである。

2人のナンパとクルマとバイクと青春。地方都市の繁栄への翳りも、ちらほらと描かれていく。街の中心が郊外を走る海岸道路に移ってしまい、街中から若者が減りつつあるというくだりが描かれたり、また、車に金をかけて改造する走り屋なんてもう流行らないということもやや自覚し始める場面であったり。

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主人公たちが憧れる"ジュンちゃん"というキャラクターが一番好きだ。ジュンちゃんは、語りづがれる伝説クラスの走り屋。腕のいい自動車修理工でもあり、ケンカが強く、後輩の面倒見もよい。とても頼りになる存在で、女性にもモテる。だが、どこか哀愁も漂っている。このキャラクターにはモデルがいる。"アメグラ"のジョン・ミルナーである。

ジョージ・ルーカス出世作である映画『アメリカン・グラフィティ』(1973年)の舞台は、西海岸の田舎町。金曜ごとにクルマで街に繰りだす若者たちが、ずっとナンパしたりしながら街を流している様子は、ルーカスがハイスクール時代を過ごした小さな町そのものだった。そして、この町の若者たちに慕われる"ボス"が、エンジン剥き出しの古いフォードに乗るホットローダーがジョン・ミルナーである。

ミルナーもゼロヨンレースでは無敵。不良たちだけでなく、まじめな主人公カートや生徒会長のスティーブでも一目置く存在。だが哀愁がただよう。「この街も昔はもっと騒がしかった」というのは、彼が町のはずれの自動車廃棄場でミルナーがつぶやく台詞だ。

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ジュンちゃんとジョン・ミルナーが背負っている哀愁には、正体がある。小さな地元の町の衰退。彼らは、町そのものを背負うキャラクターだ。

かつて若者たちが自動車で町を走り回り、町にも活気があった。だが、いつしか若者たちは都会に出て行くようになる。ジュンちゃんは、家業の自動車整備工場を継いでいる。この町に止まらなければ生きていけない存在。それは、ミルナーも同じだ。彼らは、町から一歩も出られない"リトル・ボス"だ。

ハジメもコージもいつかこの町を出てやるという思いを抱いている(ハジメは少なくとも実家の農家を継ぎたくない)。どこかで、ジュンちゃんのようにはなりたくないと感じている。"アメグラ"の登場人物であるカートとスティーブも同じ。彼らは、ミルナーを尊敬しているが、自分たちは大学に行くために町を出る側の人間である。

町の衰退は、自動車がもたらした。若者たちをつなぎとめるために、親はクルマを買い与えた。そのクルマが町に繁栄とは逆の効果を与えた。ナンパの車列がロータリーを何週もするように、負のサークルがぐるぐる巡る。

 

シャコタン☆ブギ』は、日本の地方のドメスティックな若者たちの青春を描く。うっすらではあるが映画『アメリカン・グラフィティ』が下敷きにされている。高校生がクルマとバイクに乗っているという設定は、そう、アメグラを元ネタにしているということ。作品掲載は、1995年まで(ヤンマガ)続いていたが、きちんとした結末を描かれないまま途絶えている。どこかできっちりとケリをつけてほしい。それだけの価値のある作品なのだから。

 

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15-1 Udagawa-Cho Shibuya-ku Tokyo 150-0042|Shibuya PARCO9F「SUPER DOMMUNE


"八代亜紀からレゲトンまで「カーオーディオとモータリゼーション音楽史」第2章"。前回は、チャック・ベリーからトラック野郎、八代亜紀へと連なるモーターカルチャー前半史をお送りしましたが、今回は、ようやく70年代半ば以降の話に突入します。スプリングスティーン『明日なき暴走』は、何がどう暴走なのか? RCサクセションからWINKまで、カーラジオが歌われる歌謡史、キャロル、ハイティーンブギ、氣志團に至る"ヤンクロック"史、佐野元春とクーペと『アンジェリーナ』、『シャコタン☆ブギ』から『頭文字D』と走り屋漫画の系譜、そして、本イベントの中心的テーマである"チカーノ、ローライダー文化から映画『ワイルドスピード』のつながり"まで。"車と音楽"通史の総決算!!!